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冨来 健一
(要約:桐生悠一)
6月に第2の勤め先を退職して何もしないでいたら、見る見る奥さんが塞ぎ込んでいく。8月頃には顔つきまで変わってきた。
奥さんは(今は否定するが)ノイローゼ寸前だった。これまで「亭主は元気で留守が良い」でやってきたのに、突如毎日目の前に粗大ゴミが
居座る状態に耐えられなかったようだ。
ゴミなら静かにしていてくれるが、特に管理職だった人は本人が気がつかなくても奥さんには一挙手一投足を管理されているのが感じられ、
堪らないそうだ。これまで何人かの部下を管理していた精力を奥さんにしか向けられなくなる。
図書館に行っても同じ会社にいた人に出くわす場面があり、時間潰しが目的なら行くべきでないという。
奥さんが持ってきた県立職業訓練校の生徒募集の案内につられて千葉のチベツトといわれる芝山まで片道2.5時間の通勤をものともせず
半年間の修行に出かけることになった。実家が材木商、蜜柑農園を営んでいた縁で木に馴染んでいた。庭いじりが好きで、30年に亙って
自宅の庭の手入れを自分の手でやってきた。(訓練やテストの厳しさ、職業病である関節炎の治療法等も詳しく説明されたが、ここでは省略する。)
後日、奥さんはこれで駄目なら自分の友人が学長をしている女子大の講師を勧めるつもりであったという。(何れにしろ、外で働けということ)
冨来氏のこの転身については、平成12年3月27日の産経新聞の記事に「還暦後の手習い/大樹なき道・元
山一マンとその家族」に詳しく紹介されている。
1年間は誰からも仕事が来なかった。広告を何千枚も作って自分でポステイングしたが、見事に1軒も反応がなかった。後日、 これは信用がないためだと判った。事実、飛び込みでくる植木屋などに手入れをさせると荒らされて3年間は樹形が元に戻らない。飛び込み植木屋だと思われたのだ。 読売新聞の販売店が販売促進のために地域情報を紹介した「瓦版」を出している。それに載せてもらったら突如として注文が来るようになった。 読売新聞の信用である。このようにして得た固定客が30軒ほどある。如何に個人は信用されないか身に沁みた。自分が山一で一人前にやれたのは、 自分の力ではなく、山一の信用だと思い知った瞬間であった。 1月7月に募集する船橋市いきがい事業団に応募して、そちらからも仕事をもらっている。いきがい事業団は市の機関だと思われていて信用があり、 処理しきれないほどに注文が入ってくる。ところが今年に入ってからばったり注文が来なくなり、 職員が我々に「すみませんが、貴方がたも営業活動をしてください。」と頼まれる始末である。これは、(1)国民年金の支給額減額、 (2)国民健康保険の自己負担3割化、(3)消費税の将来増税計画、等不況期に一番やつてはならないことを連続的に打ち出したための 高齢者の生活防衛が始まったためである。 庭に入ることはその家について40%位の情報を得ることである。一旦庭に入れてしまうと今度は徹底的に信用してくれる。 私を置いて夫婦で外出してしまい、私のほうが心配になるほどの信用振りである。
頼む側は値段が心配、ちゃんとした仕事をしてくれるかが心配 これが判ってきたので、「6時間12,000円」「国家試験資格・2級造園技能士」を明記して営業するようにした。
2時間でも4,000円で引受け、お客に非常に喜ばれている。半日仕事では普通の庭師は応じてくれないからだ。
3日やって1日休むペースを守っている。月に18日間作業する。一度8日間連続で働いたが、結局ペースを崩して悪い結果となった。 10時と3時に休憩するが、この休憩を取らないとその後の作業効率が必ずガクツと落ちる。
年代が上の人ほど植木屋を丁寧にもてなす。おやつが無いようだと手を抜くという訳ではないが、親切に欠ける仕事になりやすい。 500円か1,000円のことなので、10時3時には「ご苦労様」といって出したほうが良い。最悪なのは、作業が終わってからおやつを出したり、 お金をくれる人で、出すタイミングが全く間違っている。但し、これが通用するのは40代以上の職人に対してのようで、 今の若い職人たちは私たちから見ると無国籍人で自分たちでお菓子を買ってきて持ち込んだりしているから、今後変わっていくかも知れない。
剪定は通気を良くするために行なう。格好付けは二の次。外側を残し、内側の日の当らない葉や枝は除くのが原則。「梅は裸で懐(木の内側)へ入れる
ように」という。
忌み枝(格好の悪い)、枯れ枝は除く。切る場所は枝の分かれ目の1ミリ上を45度の角度で(切り口に水滴が溜まって枝の芯を腐らせないように)切る。 柿と紅葉は手で折り取ると良い。
剪定は樹が活動を休んでいる時期に行なう。樹によって時期が違う。槇(まき)や樅(もみ)の樹は7月に休んで8月からまた葉を出して活動する。 紅葉は10月に葉を落してから剪定する。
1本立った樹のひこ生え(地面すれすれから生えてくる)は根元からきる。ひこ生えは樹勢が弱ると生じる。 株生え(南天のように地面からワーッと生えるもの)は大きい株を根元から切って新しく生えてきたのを残す。3、5、7本と残すのが良い。 7本より多いのは垣根以外では勧められない。
樹の形は1回おかしくすると良くするのに3年かかる。
剪定と片付けは(持って帰って廃棄処理する時間も入れれば)同じくらいの時間が掛かる。お客が「自分が片付けをやる」といえば剪定が倍量できる。 業者は市に処理に出して最低で20円/kg支払っている。
始めて樹の剪定をやると大変な手間がかかる。翌年はその7割くらいの手間で剪定ができる。3年目くらいからそれ以上下がらなくなる。
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冨来氏の話には、定年後、始めて個人として仕事をやる人にとって非常に参考になる貴重な教訓が大量に入っ ていた。官庁や会社で仕事ができたのは、その機関に対する信用が基盤にあったからである。裸の個人となった 人が活動の場を求めるために我々はNPO法人シニアSOHO小金井を設立した。この組織を活用して、自らの 企画で、或は他の会員の企画に共鳴して社会的活動をして欲しい。このNPOはその人々のプラットフォーム (活動の場)である。(桐生)